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東京高等裁判所 昭和28年(う)3156号 判決 1954年1月21日

控訴人 被告 東京ミシン工業株式会社

弁護人 西ケ谷徹

検察官 司波実

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人西ケ谷徹の控訴理由は、末尾に添付する控訴趣意書と題する書面に記載するとおりである。

おもうに、両罰規定によつて罰金刑を科せられる法人の責任は行為者本人のそれとは別個のものではあるが、該責任たるや、行為者本人の責任に当然随件するものであるから、行為者本人について責任の存続すると認められる限り、法人の責任は否定されることはない。このことは、いわゆる両罰制度の本質上むしろ疑のない所である。ところで、刑訴法第二五三条第一項は、時効は犯罪行為が終つた時から進行すると規定しているので、行為者本人の違反行為が長期一〇年未満の懲役にあたる罪である場合には、該違反行為の時効は刑訴法第二五〇条第四号によつて五年の期間を経過することによつて完成するわけであるから、該違反行為に対する両罰規定によつて法人に科せられる刑は、たとえ罰金であつたとしても、この法人の責任も亦、右と同じ期間は適法に追求されるものといわなくてはならない。飜つて、これを本件について看るに、原判示第一乃至第一三の所論事実は、起訴の当時においては、未だ五年の期間を経過していなかつたのであるから、本件違反行為者たる被告会社代表取締役西ケ谷戸作の犯罪が物品税法第一八条第一項により五年以下の懲役を以て、その重い主刑とする所からいつて、同法第二二条の両罰規定による被告会社の責任を追求しようとする本件起訴は、刑訴法第二五一条、第二五〇条第四号によつて明らかに時効完成前になされたものであつて、右物品税法第二二条による被告会社の責任が罰金刑であるの故を以て、本件起訴が三年の時効期間経過後にかかる不適法なものだと非難する所論は、ただ独自の見解として排斥するの外はない。それで、論旨は理由ないものといわなくてはならない。

よつて、刑訴法第三九六条に則つて、主文のごとく判決する。

(裁判長判事 中野保雄 判事 尾後貫荘太郎 判事 渡辺好人)

控訴の趣意

原判決は被告会社代表者西ケ谷戸作の第一乃至第十五の物品税逋脱の事実を認め、各事実についてそれぞれ罰金刑の言渡をしたが、右事実中第十三の事実は本件公訴提起以前に公訴時効が完成しているので、免訴の判決を言渡すべきものである。即ち物品税法によれば、法人の物品税法違反の事実に対しては罰金刑のみを法定してあるのであるから、本件公訴事実は罰金に該る罪であり刑事訴訟法第二五〇条第五号により公訴時効は三年を以て完成するものと信ずる。公訴時効は所定の法定刑の如何によつてその期間を算定すべきものであることは言を俟たず、法人を処罰すべき場合に於てはその行為者に関して法定せられている刑罰の種類と範囲とによつて公訴時効の期間を定めるべきものではない。蓋し法人に対する処罰規定は仮令行為者に関する罰条をその内容としているとはいえ、法人に対して行為者とは別個独立の犯罪構成要件とその処罰を定めたものと解せられるから、行為者の行為とは別個独立の犯罪を定めたもので、その公訴時効の期間を算定するのに、別個の他の犯罪たる行為者に対する刑罰を算定の基礎とすることは許されないものと信ずる。然りとせば、原判決摘示の第一乃至第十三の事実は、それぞれ行為時から三年以上を経過した後に公訴を提起せられたものであつて、当然公訴時効が完成し、免訴の判決を言渡すべきものと思料するので、原判決を破棄し相当の御判決ありたく控訴した次第である。

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